海の日

銀魂の小話置き場兼、感想とか語りとか。わりと腐向けです。

 

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『夏が来る』 

沖田と先生で夏の日の小話。
二人しか出てきません。

今回、初めて沖田が何も食べていないという、記念すべき話になりました。





「おや先生。今日は内勤の日で?」
「ああ、来客があってね。君は落語の日か」

 先程まで話し込んでいた訪問客から、手土産にと渡されたものをぶら下げて帰る途中。伊東は屯所の廊下で沖田と鉢合わせた。
 夕刻とはいえ初夏の日は長く、まだまだ表は昼のように明るい。この時間に隊服ではなく私服でふらふらしている様子を見ると、今日は非番で、しかもすることもなく部屋で落語でも聞いていたに違いない。

「ご名答。牡丹灯篭に皿屋敷、真景累ヶ淵てな具合でして。夏らしく怪談話で涼んでやした」
「ずっと部屋にいたのかね。いい若い者が感心しないな」
 我ながら随分と年寄りくさい台詞だと思ったが、なにぶん沖田の素行については近藤も土方も甘すぎると常々思っている。少しは口うるさい事を言ってやる者も必要だろう。
「朝は出かけようかとも思ったんですがねぃ。なにせお天道様がカンカン照りだったもんで。溶けちまいやさぁ」
「それが若者らしくないと言っているんだ。昼日中から部屋で番茶啜って落語に興じるなど、あと50年先でも出来るだろう」
「番茶じゃなくてコーラですぜ。あとポテチ」
「そんなところだけ若さを弾けさせるんじゃない」
 ぴしゃりと言い放つと、悪びれた様子もなくへらへら笑いながら肩をすくめている。説教しているはずなのだが、どうにも面白がられている気がしてならない。
 ひょいと、沖田が伊東の手に下げられているものに視線を向けた。
「珍しいもん持ってやすね」
「…これは食べられんよ」
「見りゃわかりやすよ」
 沖田にはよく貰い物や土産の菓子を与えているので、また狙われているのかと思ったのだが。さらさらした前髪の下で、眉を寄せてむすりとしている。心外だったらしい。


「こりゃ立派なほおずきだ」
「土産にしては変わっているがね、なかなかに風流じゃないか」
 よく屯所の調度品などを依頼している商家から渡されたのは、ほおずきの鉢植えだった。変わった手土産もあるものだなと思ったが、夏の風物詩ですからと差し出されて、断る口実もなかったので受け取った。玄関か食堂にでも置いて、部下に手入れをさせればいいだろう。
 青々と茂った葉の中に鮮やかな橙色の袋がたわわに実っている様子は、涼やかで目を楽しませてくれる。鉢を収めた竹篭の持ち手には、ガラスの風鈴もぶら下げられていて、歩くたびにちりちりと涼しげな音をたてていた。
「ああ、昨日から浅草寺で市が立ってやしたからねえ」
「そうなのか」
「浅草のほおずき市でしょ?知らねぇんですかぃ」
 呆れたような顔で、沖田が逆に聞き返す。そう言えば浅草あたりで大勢の人出が予想されていた気がするが、真選組の警備日程には入っていなかったはずだ。ただでさえ夏の盛りは祭りやイベントが多いし、伊東は現場に出ること自体少ないので、そういちいち覚えてはいられない。
「有名なのかね」
「江戸っ子にゃ年中行事ですぜ」
 まったく。よそで言うと田舎者だって馬鹿にされやすぜ、となぜか諭されてしまった。君だって江戸っ子ではないじゃないかと言おうとして、言い訳がましいのでやめておいた。
 若者の方がトレンドに対するアンテナが敏感なのは当然だと自らを納得させたが、なにやら本格的に年をくった気分になった。
「ねえ先生」
 しゃがんで鉢を覗き込んでいた沖田が、にまりと笑って伊東を見上げる。
「これ、ひとつ貰えやすか」
「ん?ああ、構わんが」
 やはり食べるのだろうかと見ていると、指を伸ばした沖田は下の方で色付いていた大きな袋をぷちりとひとつ捻り取った。
 親指と人差し指で小さな提灯のように摘んで、立ちあがる。どうするのかと好奇心で声をかけた。
「部屋に飾るのかね?」
 恐ろしく似合わないが、他に使い道があるとも思えない。先程のやりとりがなければ、「食べるのかね?」と訊ねるところだ。きょとんと首をかしげた沖田が、ぷらぷらとほおずきを揺らしながら答えた。
「そりゃ、遊ぶんでさぁ」





 よほど興味津々な顔をしていたのだろう。沖田は縁側に腰掛けて、「先生もどうぞ」と隣に座れと促す。
 休日の沖田はともかく、自分はまだ仕事中なのだがと一瞬ためらったが、どうせ急ぎの仕事もない。少しばかりならいいかと鉢植えを降ろし、隣に腰を据えて沖田の手元を見つめた。
 紙風船のような外側の袋をぺりぺりと剥がすと、中から濃い朱色の果実が姿を見せた。小さめのミニトマトくらいの実は、艶々として赤珊瑚のようにきらめいている。髪留めや帯につけたら、そのまま装飾品になりそうだ。
 ほおずきの袋の中身がこの様になっているとは、初めて見た。

「ほう。綺麗だな」
「こっからが本番ですぜ」
 実の方を摘んで、指先でくりくりとこねくり回している。いったい何をしているのかと固唾を呑んで見守っていると、「先生もやりやせんか」ともう一つ枝からちぎって渡された。
 やれと言われても、最終到達点が見えない。掌にちょこんとほおずきの袋を乗せたまま、しばし固まる。
「どうすればいいんだ」
「この皮を破かずに、中身を抜くんでさぁ」
 言いながら、自分が手に持っていた方を触らせる。硬くぴんと張り詰めていた実の中身が、柔らかくぐずぐずになってきていた。
「中に種の芯があるでしょーが。こうやって外から順繰りに柔こくしていって、最後にそうっと芯を引っ張って抜くんでさぁ」
 焦って仕掛けると、裂けちまいやすぜ。そう言って沖田が作業を再開する。なかなか根気の要りそうな遊びだ。何が面白いのかいまいち理解しかねるが、もいでしまった実を捨ててしまうのももったいないので、伊東も挑戦してみることにした。
 見よう見真似で袋を破り、実を揉みほぐす。

「こういうのは、あれだな」
「へい?」
「あの、万事屋の主人あたりが上手くやりそうな気がするが」
 何となく、小器用そうな男の顔が浮かぶ。普段から親しくしている沖田も、そりゃ違いねぇとケラケラ笑っているので、伊東の持っている印象はそう外れてはいなかったらしい。

「君は誰に習ったんだね。近藤さんか?」
 子供の遊びなのだから、きっと武州時代のことだろう。まだ小さな沖田の手にごつい指が朱色の実を乗せる様子や、一生懸命ほおずきを揉んでいる姿を想像すると自然と唇がほころんだ。
 だが、答えは予想と少し違っていた。
「いやあ、近藤さんはもの凄い下手くそですぜ」
 おや、と顔を上げるが、沖田の目は変わらずじっと実を見つめている。
「うちの姉上、こいつが神業みてぇに上手くてねぃ」
 悪い事を聞いてしまったのかと心配になったが、沖田の表情はいつもと変わらず、真意が掴みにくい。

 赤い実を摘んで、指で優しく揉みほぐし、そうっと芯を抜く。姉の手元を見ながら同じようにしているはずなのに、なぜか自分のものだけ破れてしまった。
 失敗した弟にくすりと笑いながら、「はい、総ちゃん」と綺麗に中身の抜けた自分の実を渡してくれたのだ。

 相槌も弱く、合いの手を入れるでもない。最悪レベルの聞き手を相手に、淡々と沖田は昔話を続けた。気分よく相手に話をさせる術には長けている伊東の、唯一苦手な話題が家族の話だった。
「…いい姉上だったのだな」
 ようやく出た感想が過去形だったことに内心『失敗した』、と自己嫌悪に陥りかけたが、「でしょう?」と顔を上げた沖田が自慢気な顔をしていたことに救われた。


 二人で縁側に並び、無言で赤い実を捏ね回し続けた。一度に力を入れすぎてもいけないから、少しずつ、優しく。ぴんと張っていた皮の中身が、徐々に柔らかくなっていく。氷菓を溶かしているような手応えを感じながら、芯の手応えを探る。もういいだろうか。いや、もう少し。
 なにせ初めてなので、加減がわからない。
 沖田の方はどうだろうと隣を見ると、ちょうど芯を抜こうとしているところだった。
 根元を掴み、左右に何度か回してから引っ張ると、中の種ごとつるりと抜けた。

「よし」
「抜けた!」

 息を詰めて見守っていた伊東の口からも、感嘆の声が漏れる。
「大成功ー」
 にんまり笑って、芯の抜けた実を顔の高さまで掲げた沖田のくるりとした丸い目は、その果実とよく似た色をしていた。

 結局、伊東の方は芯を抜く時に穴が裂けてしまって失敗した。上手くいったらこれを口に入れて鳴らすんですぜ、と沖田がさらに難易度を上げるような事を言い出したので、それは次の機会にしてもらうことにした。

 気がつけば、夏の夕空もすっかり暮れて、宵の空に一番星が輝いている。
 今年の夏も、暑くなりそうだ。

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