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海の日

銀魂の小話置き場兼、感想とか語りとか。わりと腐向けです。

 

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『たぶん、なんでもない一日』 

ジャストタイムに間に合わなかったけど鴨誕おめでとう!

ちっともお祝いになってないけど、沖田君とふらふらぶらつくそんな休日もあったらいいんじゃない。



 今年の冬は、一段と冷え込みが厳しい気がする。
 痛いほどに冷え切った空気が耳や首の肌をしくしくと痛めつけるようで、伊東は心持ち首をすくめて、隣を歩く沖田を見た。
 さすが若者と言うべきか、沖田は私服の着物に羽織った外套の前をはためかせ、マフラーも巻かずにすっきりした首をさらして平気な顔で歩いている。

「寒くないか、沖田君」
「平気でさぁ、こんくらい」

 けろりと応じる沖田を見ていると、自分の方がだらしない気がして、思わず伊東も背筋を伸ばし直した。
 しかし、やはり寒い。
 師走に入って、街中も随分と慌しく賑わい始めている。
 先程まで二人が訪れていた商家でも、途切れることのない客に店主から奉公人まで総出で対応に当たっていた。
 『わざわざお越し頂いて申し訳ございません』と平身低頭する職人に採寸をとってもらうのにも、思いの外時間がかかってしまった。

 真選組では新年に一斉に隊服を新調するのだが、特に幹部の隊服は既製品ではなく各人の体格に合わせたオーダーメイドになっている。
 11月の内に、屯所に仕立て屋が来て全員分の採寸をしていくはずだったのだが、ちょうど出張中だった伊東と脱走した沖田の分だけが測れず仕舞いになっていた。
 書き入れ時に再度足を運んでもらうのも悪かろうと、非番の日を選んで二人の方から店を訪れたわけである。

 沖田は寒いから嫌だと出渋ったが、僕一人では困ると伊東が強引に連れ出した。
 隊規では、隊士が外出する際は出来るだけ二人以上で行動するよう取り決めている。見回りなどの職務中はもちろん、プライベートであってもだ。
 たとえ職務中で無かったとしても、真選組隊士であるというだけで恨みを持って襲い掛かる者はいくらでもいるし、誘拐でもされれば面倒な事になる。
 だから、腕に自信があったとしても一人でふらふら出歩くのは望ましくない。
 現に副長である土方でさえ、一人でいた時に不逞浪士に襲撃され、危ういところを伊東に救われた過去があるくらいだ。この実例を挙げるともれなく土方が怒るので、誰も口には出さないが。

「あんな規則、いちいち守ってる奴ァ居やせんぜ」
 ぷらぷらと若者特有の面倒くさそうな歩き方で往来を進みながら、沖田が隣の伊東に向かって首をかしげる。
「行く先は同じだったのだから、一緒に行って不都合もあるまい」
「どーせ近藤さんか土方に、俺を連れてけって頼まれたんでしょーが」
「…正確に測らねば、最もサイズが変わっている可能性が高いのは君だろう」
 図星だったのだろう。話をそらされた。まあいいかと沖田も話題を変える。 
「そーいや、今度の隊服なんか変わるらしいじゃねーですか」
「うん?…ああ、デザインは変わらんがね。ICチップを埋め込む予定だ」
「転売対策ってやつですかィ」
「隊服ごときにこうも気を配らなければならないとはね…」
「きょうびにゃ妙なマニアもいやすからねェ」
「おかげで単価が上がる。頭が痛いよ」

 ここ最近、真選組を悩ませているのがいわゆる隊服コスプレの流行だった。
 真選組の隊服は、制服マニアの間ではかなりの人気がある。そのためレプリカが流通したり、ネットオークションに本物の隊士の隊服が出品されたりする。
 先日も、かぶき町のコスプレゲイバーに真選組の制服を着たキャストがいる、とタレコミがあったばかりだ。
 念のためにと客を装って潜入捜査に行かせた山崎が、キスマークだらけで泣きながら帰って来て報告したところによれば、確かにその店で真選組と見廻組の隊服に良く似た服装の男達が客にサービスを行っていた。
 その時は良く見れば偽物とわかるレプリカだったため、以後の使用禁止と厳重注意程度で済ませておいたが、本物だったら一発で営業停止ものだ。

 レプリカの売買自体は犯罪ではないが、本物と見間違えるような精巧な品が出回るのはいい事ではない。
 犯罪者の手に渡った場合、悪用される恐れが多分にあるからだ。例えば事件の現場で隊服を着ている者がいれば、顔を知らないものであっても仲間の隊士だと思い込むだろう。
 市民も、警察だと思えば安心して警戒を解いたり隠すべき事を話してしまったりするかもしれない。
 そのため、市場に出回るものも厳しくチェックして店に指導を入れたりしているが、さらに厄介なのはネットに出回る本物の隊服だ。
 そうしたものの大半は、遠征中にコインランドリーで盗まれたり駅で置き引きにあったとかいうケースがほとんどだが、中には小遣い稼ぎ目的で隊士が仲間の隊服を盗んで売っていたりするから始末におえない。
 先日などは、とうとう幹部の隊服らしいものが出品されているのが見つかって、大騒ぎになった。

 
 『発見されてすぐ出品者のIDごと消えてしまったので追跡は難しい』
 その報告に、収まらない者が二人居た。誰あろう、副長の土方と、参謀の伊東である。
 真選組の隊内における『怖い』の要素は、九割方この二人で構成されていると言っても過言ではない。
 その二人ともが、「犯人が見つかるまで絶対に捜査を止めない」と言い張ったので事態がややこしくなってしまった。

 ちなみに、普段から土方も伊東も厳しい点では共通しているのだが、重要視するポイントが少々違う。
 土方は、どちらかと言えば隊の「内」の規律を乱す事を嫌う。隊内の和を重んじ、仲間との絆や信頼関係を損なう行いに、特に容赦しない。
 対して伊東は、真選組に対する「外」からの評価を貶める行為を許さない。組織として侮られたり、信用を落とすような外聞の悪い行為は厳しく叱責する。
 秘かに囁かれる陰口の言葉を借りれば、『外面の伊東・内弁慶の土方』だ。
 
 しかしタイプが違うおかげで、どちらかが頭に血が上っている時はもう一方が「そんなに怒らなくともいいだろう」と止める側に回るというのが常だった。
 がぁがぁ罵り合っているうちにストレスも発散されて、そのうち話し合いも落ちるところに落ち着くのがいつもの流れなのだが、今回はそうはならなかった。
 「おそらく隊内の誰かが幹部の隊服を盗んだ」という土方の逆鱗に触れる要素と、「公共の場で組織幹部の権威が貶められる」という伊東の激昂ポイントの両方を突いてしまったために、二人が揃って激怒してしまったから誰にも手の施しようがない。
 山崎や篠原のご機嫌とりでもどうにもならず、原田達隊長のとりなしにも耳を貸さず、近藤がなだめてもすかしても駄目。最後の手段の泣き落としも通用しないとなって、とうとう五日目に近藤がぶち切れた。

 「局長の俺がもう済んだことだって言ってんだ!いいから二人とも金輪際この件に口挟むんじゃねえ!!」

 そう怒鳴ったきり、局長室に閉じこもって一切無視無言を決め込んだ。
 十年に一度、あるかないかの逆切れにはさすがの鬼二人も驚いたのだろう。苦虫を100匹ずつ噛み潰したような顔をしながらも仕方なく鉾を収め、後日揃って近藤の部屋へ謝罪に行く姿が沖田によってスクープされた。
 一部の若い隊士など、「局長って、本当に副長や参謀より偉かったんですね」などと良くわからない感想を漏らしたくらいだ。
 かくいうわけで、そんな騒動の反省を生かし、隊服の監理を徹底すべしとICチップの導入が決定された次第である。
 
「伊東さん達がもうちっと早めに手打ちにしときゃ良かったんでさぁ」
 やや責めるような口調で言う沖田に、そういう問題ではない、と返す伊東の声は少々勢いを欠いていた。




「それより昼飯でも食べて行きやせんか。腹減っちまった」
「そうだな。予定より随分遅くなってしまった事だし」
 時間を確認すると、すでに昼時をかなり過ぎていた。昼食は屯所の食堂で取ろうと思っていたのに、今から戻っても残り物にしかありつけそうにない。
「この辺りにいい蕎麦屋が」
「えぇぇ、焼肉か鰻でも食いやしょうぜー」
 軽く済まそうとした伊東に反し、沖田は抗議の声を上げる。
「嫌だよ。なぜ昼間からそんな胃もたれのしそうなものを…」
「いいじゃねぇですか、肉食いやしょーよぉ」
「僕はそれほど空腹ではないんだ」
「なにさっきから年寄り臭ぇこと言ってんですかぃ。んなザマじゃ三十路の声聞く頃にゃ、夏場に素麺しか食えなくなっちまいますぜ?いくらなんでも、元副長はメタボ、元参謀は栄養失調ってんじゃ、真選組的にカッコつかねぇんで勘弁してくだせぇや」
「今なぜさりげなく「元」がついたのか詳しく聞いてもいいかね」
「気にしねぇでくだせぇ。ただの願望なんで」



 
 結局、沖田の食い気に押されて、旨いと評判のうなぎ屋でうな重を食べる羽目になった。
 焼肉は服に匂いがつくから嫌だ、というのが伊東側の譲れない言い分だったからだ。
 二階の座敷に上がり、羽織を脱いで熱いお茶を一口啜れば、凍えた体が解れてほうと一息ため息が出た。

「しかし、うなぎ屋など何年ぶりかな」
 そう一人ごちた伊東に、意外そうに沖田が問い返す。
「そうなんですかぃ?よく接待やらなんやらで食ってるもんだと」
「宴席で焼物が出てくることはあるがね。こういった店でわざわざ頼むというのは…」
 実際、思い出そうとしても記憶にない。出張先で誘われることはあったがなんとなく断っていた。
「鰻は、出てくるまでに時間がかかるだろう?」
「まぁそれなりんとこは、頼んでから捌くもんですからね」
「待っている時間が苦手なんだ」
 相手を接待するでもなく、込み入った話をするには中途半端な、食事を待つだけのふわふわとした時間を他人と過ごさねばならないのが苦痛だった。
 沖田に付き合って入店したのも、伊東にしてみればかなりの心境の変化といえる。

 そんな心境など沖田には知ったことではないのだろう。
 ふぅんと良くわかってない様子の相槌で受け流して、卓上の品書きを眺めて「やっぱり白焼きと肝焼きも追加しやしょうや」などと言っている。
 すでに特上のうな重が注文してあるのに、随分と羽振りのいい事だ。
 それとも伊東にたかる腹積もりなのかもしれない。

「奢るとは言ってないぞ」
 出してやっても別に構わなかったが、念の為釘を刺してみると、沖田は懐から黒革の財布を取り出して振って見せた。
「ご心配なく、軍資金なら十分あるんで。なんなら先生にも奢りやすぜ」
 どこか見覚えのあるその財布は、沖田の持ち物ではなかった気がする。眉をひそめた伊東の目の前で、沖田は財布の中身の検分を始めた。
「ひのふのみっと、こんくらいありゃいーか。…ちっ、つまんねーなぁ。風俗の割引券もコンドームも初恋の女の写真も入っちゃいねぇや」
「ちょっと待ちたまえ。それは誰の財布だ」
「いい歳した野郎の財布なんだ、普通どれか一つくらいは入ってるもんでしょうが。ねぇ?」
 質問を無視した上に同意を求められても困る。伊東の財布にもそんなものは一つも入っていない。だがその問いで、財布の持ち主に対する確信は深まった。
「…土方君の財布なんだな?」
「ご名答」
 にやりと笑ったその手から財布を奪って中を見れば、良く知った顔写真付きの免許証から、アニメショップの会員券まできっちりと整理された、まごうことなき土方の財布だった。
 手癖の悪い沖田を叱るより、土方の脇の甘さにあきれ返る。
 真選組の副長ともあろう者が、まんまと財布をすられるなど、間抜けにも程があろう。どの面下げて被害届を出すつもりだ。

 自業自得だな。
 そう思い黙って返すと、「じゃあ今日はこれでぱあっといきやしょうか」と伊東まで共犯に丸め込もうとする。
「君は自由に使えばいいよ。僕は結構だ」
「まあそう言わずに」
 なんだか妙ににやにやとした態度に、ふと嫌な予感がして懐を探る。やっぱり。財布がない。

「沖田君」
「はい?」
「返したまえ」
「何の話で?」
「僕の財布だ。君がくすねたんだろう」
「そりゃあずいぶんとひでぇ言いがかりだ」
 目の前で盗んだ土方の財布をおもちゃにしながら、沖田が大袈裟にしらばっくれる。
「君しかいないだろう。さっき寸法を測っている時僅かだが目を離した、その隙に」
「さあて、覚えちゃいねえや」
 前言撤回だ。土方は悪くない。やはりこの悪戯小僧には教育を施す必要がある。
「まあ、いいじゃねーですか。幸い今日はコレがある事だし」
 ぱんぱん、と沖田が黒革の財布を叩く。何が何でも、土方の金を使わせたいらしい。だが、不可抗力とは言え土方に奢られるのは気に入らない。

「それならもう帰らせて…」
「えー。もう注文した鰻は腹かッさばかれてる頃合いですぜ? 今さらキャンセルしたんじゃ、先生のために命落とした鰻も浮かばれねぇ」
 そう言われると、さすがに放っては帰り難い。
 しばらく考えた末に、「すぐに戻る」とだけ言い置いて、伊東は店から出て行った。




 つぶ貝の酢味噌和えをつまみながら、ちびちび熱燗を舐めつつ待っていると、二階の窓から伊東が戻ってくる姿が見えた。
 じきに座敷に上がってくると、温まっていた部屋に冷え切った空気が混じる。

「間に合ったか。まだ鰻は来ていないな」
「待ちくたびれて寝ちまおうかと思ってやしたぜ。どこ行ってたんで?」
 猪口を差し出す沖田に手だけで断りを入れ、急須から茶を煎れながら伊東は封筒を取り出した。

「金を作ってきた」
「銀行で?」
「カードはすべて財布の中だよ」
「ですよね」
「時計を質に入れてきた」
「へぇ?」

 言われて思い出したが、そういえば伊東はなにやら高そうな懐中時計を愛用していた気がする。剣を振るうのに邪魔だからと腕時計を嫌う剣士は多いが、最近では携帯電話を時計代わりにする者も少なくない。
 どこか古風なイメージの懐中時計を取り出す姿が印象に残っている。

「あのよく懐に入れてたお気に入りですかぃ」
「ああ。よく覚えているね」
「高そうだったんで」
「…盗まれなくて良かったよ」
「大事なモンだったんじゃ?」
「もちろん大切だとも。江戸に上京する時、兄から餞別にと頂いた物だからね」
 ぴくりと、初めて沖田の表情がほんの少しだけ強張った。
「その時計をうなぎ食うために質入れしたってんですかい?」
「財布が戻ってきたら、すぐに請け出しに行くよ。兄上も何かあった時のために下さったのだから、しばらくの事ならば問題なかろう」

 あっさりとそう答える伊東の目が、文句があるならばさっさと財布を返せと言っている。
 そこまで土方に借りを作るのが嫌だったなら、消費者金融でキャッシングでもすりゃ良かったんだ。

「駅前に行きゃ、金貸しもありやすぜ」
「金貸しに借りたら借金だろう。真選組の身分での借金は局中法度で禁じられているよ、沖田君」
  第2条 勝手に金策致すべからず、だ。やっと運ばれてきたうな重を受取りながら、伊東が局中法度をそらんじた。気に入らない相手の決めた規則なのに、嫌味なほどしっかりと実践なさっている。
「質屋は借金じゃねぇんで?」
「あれは貸金業じゃないからね」
 担保は僕の信用ではなくただの時計だ。扱っている法律も貸金業法ではなく古物取扱業法で、管轄が違うんだ、とかなんとか。伊東のうんちくがわからない時は、理解せずに聞き流すに限る。つまり要は。
「なァるほど、法の抜け道ってやつだ」
「ただの理屈だよ」

 口では謙遜するようなことを言っているが、表情はしっかりと自慢げだ。
 ざまあみろ土方、と頬に大書きしたままうなぎのタレがしっかりしみた飯を口に運んでいる。
 こりゃ一本取られた、と胸の中で舌を出しながら、沖田も自分の分の特上うな重に向かってぱちりと両手を合わせてから手を伸ばす。人の金で食べるうなぎは旨かった。




 うなぎ屋を出る頃には、真冬の仕事嫌いな太陽はもう傾き始めていた。
 暖まった身体で歩く道すがら、共通の話題である土方の悪口が妙に盛り上がって、結局ほぼずっと土方を罵ったり、貶したりして帰路を過ごした。
 
 あいつと寿司食いに行くと、ツナマヨとかコーンマヨばっか食べててうんざりするんで。
 いっそ海苔と酢飯とマヨネーズだけ与えておけばいいんじゃないか。
 そりゃいいや。次からそうしまさぁ。
 とりあえずあのスカした態度が気に入らない。
 自分でカッコいいと思ってるとこが腹が立つ。
 そもそも顔がムカつく。
 声を聴くとイラッとする。
 タバコくさい。死んで欲しい。
 マヨネーズくさい。死んで欲しい。

「要するに、死ね土方って事ですねぃ」
「まったくもって死ね土方だな」
 ちょうど屯所に到着する頃、話もすっきりと結論に落ち着ついて、気持ちよく帰ってきたと思ったら。

「おいテメェら!こんな時間までいったいどこほっつき歩いて居やがった」
 帰って一番に出迎えたのが当の土方というのは何の嫌がらせだ。帰りが遅いからって門の外で帰りを待つな。お母さんか。
 実の母親にだってそんなことされた経験がないのだから、ぜひとも止めてもらいたい。人の夢を壊すな。

「何してるんだ君、こんなところで」
「なんでぃ土方さん。暇なんですかぃ」
 沖田の返事に「違ぇよ!」と怒鳴り返した土方によれば、帰りが遅いので業者に連絡してみたら、もうとっくに帰ったとの返事。しかしやはり待てど暮らせど帰ってこない。
念の為迎えに出した隊士が、行って帰ってきたのに道で鉢合わせることもなかったという。沖田だけならともかく、伊東が一緒で寄り道ということもないだろう。
 そんなこんなで、屯所では何かあったんじゃないかと気にしていたらしい。

「馬鹿馬鹿しい。少々二人でゆっくり食事をしていただけだよ。子供でもあるまいし」
「別に、心配してたわけじゃねーけど。今日はその、ほれ、アレだからよ…、主役がいねーんじゃ拙いだろ」
 どうやら、夕方から予定されている宴会の進行についての懸念のようだ。それこそ、子供でもあるまいしそんな気遣いはいらないのに。
「お気遣いは痛み入るがね。僕と沖田君が揃っていて、何があるというのか逆に聞きたいね」
「そうですぜ。もし俺や先生が襲われてやられちまってたら、土方さんがなに出来るってんですかぃ」
「そんときゃ俺が仇とってやるよ。安心して成仏しやがれ」
「へえぇ。聞きやしたか。俺と伊東先生が二人がかりで敵わなかった相手に、勝てるつもりで居るらしいですぜ」
「思い上がりも甚だしいな」
「うるせぇ。それから総悟、てめー俺の財布かっぱらっただろ。さっさと返しやがれ」
「あ、こりゃどーも。おかげで前祝いにうなぎ食ってきやした。旨かったですぜ」
 ぺらりと差し出された中身の減った財布を奪い返し、懐にねじ込む。
「まあ、誕生祝いだ、そんくらいは大目に見てやらぁ」
「何か勘違いしてるようだが、僕は自分の分は出したぞ」
「んだと?」 
 盛大に眉間に皺を寄せた土方に、沖田もこくりと頷いてみせる。
「伊東さんはどーしても土方さんの金で食うのが嫌だったそうで」
「あいにく持ち合わせがなかったから、質屋で金を作る羽目になったがね」
「そこまでされるとそれはそれで嫌な感じだなオイ」
「ちなみに、質入れしたのは郷里の兄上に餞別でもらった大事な時計だったそうでさぁ」
「今すぐ請け出しに行って来い!!!!」
「焦らなくても、そうすぐに流れやしないよ」
「そういう問題じゃねーだろ!そんなもん質草にするな!」
「僕の物をどう扱おうと、君に指図される謂れは無い」
「にしたって他になんかなかったのか、なんか」
「仕方ないだろう。刀か時計くらいしか金になりそうなものが無かったんだから」
「だったらもう俺の財布の金使っとけ!」
「だから君に借りるくらいなら初めから問題など起きていない!」

「あのー、すみません」
「ん?」
 門の入り口で騒いでいるうちに、いつの間にか回りに何人か隊士が集まっていた。いつからいたのか遠慮がちに声をかけてきた山崎が、伊東と沖田に「お疲れ様です、お帰りなさい」と声をかける。
「ああ、今帰ったよ。心配をかけたらしいね」
「いえ、何事もなくてよかったです。局長もさっきから待ってて…」
 ちょうど言うそばから、「おーい、先生、そうごー、おかえりー!」と叫びながら縁側から手を振る近藤の声が届いた。
 ただいま帰りやしたー、と返事をして、二人も屯所の中へと戻っていく。 

 土方だけが、釈然としない気分のまま残された。

「あの、伊東さんも別に悪意があって断ったわけじゃないと思いますけど」
「うるせぇ。大体いつから居たんだテメェ」
「えーっと、「死ね土方」のあたりからしか聞いてませんけど」
「そんなとこ知らねぇよ!いつだそれ!!俺が出てくる前じゃねェか!!」
「だって!俺ずっとそこにいたのに誰も気付いてくれなかったじゃないですか!」
「そのくせあいつ等、俺には挨拶のひとつもしやがらねぇ」
 ぶつぶつと文句を垂れる土方のひっかかっている点に気がついて、山崎は小さくほくそ笑む。
 教えた方がいいだろうか。沖田や伊東が、土方にだけ「ただいま」と言わないのは、土方が先に「おかえり」と言わないからだと。

 少し迷ってやめておいた。こういう事は、人に言われて気がついた所で何の意味もない。
「とりあえず、今夜はおめでとうって言ってみるってのはどうですかね?」
 せっかくのチャンスだし、垣根を越えるヒントくらいは出しておく。
 

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