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海の日

銀魂の小話置き場兼、感想とか語りとか。わりと腐向けです。

 

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『君のために出来ること*グリーン』 

伊東誕に上げようとして、間に合わなかった作品です。
一応、何年か前に書いた『君のために出来ること』シリーズの一つ。何年越しだって話ですが。

高校生パロですが、3Zとは違ってますのでご承知おきください。



土方が伊東と初めて会ったのは、高1の夏。
高校に入って知り合った近藤に、半ば強引に誘われて入った剣道部の大会の対戦相手だった。

 小学生の頃から兄の知人がやっていた剣道教室で大人と張り合っていた土方にとって、中学の部活動はまるでただのチャンバラごっこに見えた。そのあまりのレベルの低さと人間関係の煩わしさに嫌気がさして、三日目で部活をすっぽかしてからは学校では剣道の事など口にもせずに過ごした。一度、その態度が生意気だと上級生に囲まれた時も、一人で全員をボッコボコにして黙らせた。

 だから無論、高校でも部活動なんてするつもりはなかった。
 部活なんて甘っちょろい事をしていたら、逆に剣が鈍るような気さえしていた。孤高の中にこそ真の剣の道はあるだとか完全に治りの遅い中二病だったわけだが、近藤はそんな土方の薄っぺらな信念などまったく気にも止めずに、来年入ってくる俺の後輩は剣の天才だ、俺達が一緒にやればインターハイ優勝も夢じゃない、などと土方を丸め込んで結局一緒に入部届けを出してしまった。
 友達のいなかった自分に何くれと構ってくる近藤の顔を立てる意味もあって、高校ではそれなりに真面目に部活動にも取り組んでいたが、あまりやる気はなかったと言っていい。
 それでも道場で培った剣の腕と生来の勝負強さで、一年にしてレギュラーに抜擢された。
 
 その時の相手が、伊東鴨太郎だった。
 初めて相対し、眼が合った瞬間。背筋に嫌な悪寒が走った。一瞬風邪でも引いたのかと思ったくらいだ。
 「始め」の掛け声と共に、めずらしく土方は吼えた。自分を鼓舞するためと、相手を威嚇するための気合だったが、面の奥の、さらに冷たいレンズ越しの視線はほとんど揺らぐこともなくどこか馬鹿にしたように土方を見つめていた。
 弱い犬の遠吠えだと、見抜かれていたのだろう。
 二度三度、打ち合いをするうちに、嫌な予感は確信に変わった。こいつは強い。たぶん自分以上に。そしてすごく嫌な奴だ。
 性格が悪いとかそういう話じゃない。土方にとって、とにかく嫌な、大嫌いな太刀筋だった。元々直感的に攻撃を避け、見えたままに相手の隙を叩く土方の剣戟は、計算された数ミリもブレのない伊東の剣術にまったく歯が立たなかった。
 それどころか、戦えば戦うほど、敗北感に打ちのめされるような気がした。これまであえて眼を向けないで来た己の弱点を見つけ出しては、それを暴き、ネチネチと責め立ててくる対戦相手に、無性に腹が立った。相手の弱点を攻めるのなど当たり前の戦略なのに、眼を背けたかった部分をあまりにもピンポイントで攻撃されて逆上していた。要はただの逆切れだ。 
 結局、その時の勝負は一本も取れずに負けた。
 一言も言葉を交わさなかったが、立ち去り際の妙に不機嫌そうなその表情だけがやたらと記憶に残った。なぜだか、がっかりされたような気がして、最初に馬鹿にした眼を向けられた時より何倍も悔しかった。

 その日から、土方は道場でも学校でもこれまで以上に練習に励むようになった。次に対戦する時は、絶対に見返してやる。俺が本気になれば、あんな奴より間違いなく強くなれる。
 その一念が通じたのか、半年後の大会で再度対決した時には、互いに小手を繰り出し合って引き分けに持ち込んだ。
 試合後に礼をして顔を上げた時、憎々しげな視線で射抜かれて、ゾクゾクした。やっと敵として認めさせてやったと、そう感じた。
 次に対戦する時は、今度こそ勝ってやる。その時は一言、言葉を交わしてみようか。
 去っていく後姿を見送りながら、秘かに胸の中でそう思った。

    

 
 
 それなのに、二人が初めて言葉を交わしたのは、剣道場ではなく思いもかけない場所だった。
 土方には剣道以外にもう一つ、映画鑑賞という趣味がある。(正確に言えば、剣道は趣味でやっていたわけじゃない)
 特によく通っているのが、数年前に大型ショッピングモールにシネコンが併設されて以来すっかり寂れてしまった駅前の映画館だ。スクリーン数も少ないし、エレベーターは5人も乗ればガタガタ揺れて今にも止まりそうなくらいオンボロで、チケット売りも若い女じゃなく愛想の悪いばあさんがやってる、潰れないのが不思議なくらい流行らない映画館である。
 土方はそのかび臭い映画館の擦り切れた硬い椅子で、古くさいリバイバル物の映画を見るのが好きだった。オールナイト上映に高校生が紛れ込んでいても、眼をつぶってくれるゆるいところも気に入っている。
 一度近藤を誘ったこともあるが、暗くなってすぐに寝てしまい、いびきが酷すぎて近くの客ともめて以来すっかり懲りて映画館に近づこうともしない。だから基本的に一人で、ふらりと見に行くことが多かった。 

 
 最初にその姿に気がついたのは、上映の終わった劇場内だった。
 その日の映画はあまり有名でない邦画で、病院の白さと眩しさだけが印象的な辛気臭い作品だった。始まった時点ですでに病床だった主人公の双子の姉は、どう見てもラストまでもちそうになく、案の定終幕の少し前には息を引き取った。
 身内に病人が居るわけでもないのに、土方は昔からこういう話が苦手だった。怪我をした同級生の見舞いに病院に行くのすら断るくらいの病院嫌いで通っている。
 ぐずつく鼻を啜りながら、エンドロールが終わって明るくなってからも席を立てずにいたら、少し離れた場所で同じ様に座ったままの制服姿の高校生が視界に入った。自分の事は棚に上げて、こんなボロい映画館に来るなんて変な奴だな、と何気なくその顔を見て、土方は思わず「あ、」と声を上げた。
 目と鼻を赤くした情けない顔のその男子高校生が、つい先週に鎬を削ったばかりのクソ生意気な剣士だと気付いた時の衝撃は忘れられない。

「…伊東?」
「こんなところで、何をしてるんだ…土方君」
 向こうも同様に驚いた顔でそう問われ、ああこいつちゃんと俺の名前覚えてたのかと何となく胸がすっとした。
 ほんの数日前には射抜くような鋭い視線で見つめあった相手に、一番みっともない顔を見られてお互い動転したのだと思う。そのまま無視して立ち去ればよかったのに、わざわざ歩み寄って「よく来るのか?」「たまに」だとか、そんな会話を交わしながら肩を並べて場内から出た。
 多分、先に眼をそらした方が負けだとでも感じていたのだろう。

 
 二回目はチケット売り場で。三回目はコーラ片手に鉢合わせて、四回目は観念して隣に座って見た。
 予告でやってた新作がおもしろそうだったな、なんて話になって、五回目は待ち合わせて一緒にチケットを買った。
 結局気が付けば、予定をあわせては一緒に映画を観て、時間があれば飯食って帰る。そんな関係になっていた。
 そこの劇場は高校生ペアでチケットを買うと安くなったからだとか、見終わった後に少しだけ饒舌気味に映画の内容について薀蓄を語るのを聞くのが意外と面白かったとか。理由はいくつかあった気がするが、実際はただ何となく、もっと話してみたくなっただけだ。
 個人的に話をするようになって、伊東も土方の事を『初めて会った時は嫌いなタイプだと思ったよ』とあっさり告げられた。
 『覇気はあるのに、剣筋は雑すぎてまるでなっていなかった。どうして欠点を克服しようとしないのか、無駄な動きをするのか、見ていて腹が立ったよ』と。
 反論できなくて、やっぱり嫌な奴だとハンバーガーを100円のコーヒーで流し込みながら土方は眉をしかめた。


***


 二年に進級して、後輩として剣道部に入部してきた沖田のおかげで、土方の鼻っ柱は最終的に完全にへし折られた。
 近藤が言っていた通り、掛け値なしの天才という奴は存在するんだと思い知らされた。
 下級生のくせに、暇さえあれば(時にはなくても)畳の上でゴロゴロと転がってはウォークマンで落語を聴いている。そんなに落語が好きなら落研にでも行きやがれとコーチにも怒鳴られたが、そのコーチの竹刀ですら沖田にはかすりもしなかった。

「ひとが剣振る時にゃ、剣先が動く道すじになんか光がみえるでしょーが」
 そこを一ミリでもずらせば決して当たらないのに、どうしてみんなそんな事が出来ないのかわからない。
 そう、くるりと大きな眼で不思議そうに言われた時には世の中ってのはなんて不公平がまかり通るものなんだとしみじみ思った。そして、こんな奴が側にいたのに、絶望もせず無邪気に剣道が好きだと言う近藤の事も、改めてすごい奴だと思った。
 剣術の神様という存在があるのなら、きっとそいつは女で沖田に惚れまくってるんだろう。そして近藤みたいなのは、その女神がどんなにつれなくても好きで好きで、そばに居られるだけで嬉しくてアタックを続けるタイプなんだろう。
 

「じゃあ彼は、いったい何のために剣の道に進んだんだろうな」
 冷房の効いた店内でアイスコーヒーにミルクを流し込みながら、伊東が呟く。相手の剣がすべて見えてしまうなら、自然と己の剣の行く末も想定内のものになってしまう。先の見えない道を切り開くために剣を振るのではなかったら、見通せる未来に向かってただ定められた道を行くのだったら、剣を振る意味をどこに見出しているのだろう。
「…しらね」
 ブラックのままのアイスコーヒーのストローをかじりながら、土方も答える。
「才能のある人間が能力を粗末にすると、世間は非難するからな。そこから抜け出そうと足掻くより、才能の檻の中で安穏としていた方が楽だという事かもしれないな」
「そこまで考えてねーだろ、あいつ」
「試合で見た限りでは、勝負にこだわっている風にも見えなかったが」
「…そうだな」
 何が何でも勝ちたいという意欲もあまり持ちあわせない沖田は、だからたまにちょっとした事で勝負を落とす。そんな態度を毛嫌いする部員もいて、一度「別にこっちだって好きでやってんじゃねぇやい」とぼそりと漏らすのを耳にした事もある。
 土方の見る限り、沖田が剣道部に籍を置いている理由は『近藤さんが喜ぶから』の一点に他ならない。
 憶測に過ぎなかったからそこまでは言わなかったが、伊東はただ、「才能は毒とも言う。僕らにはわからん苦労があるのかもしれないな」と結論付けた。

 僕ら、という言葉が妙にすとんと胸に収まった。
 もやもやとしていた視界の霧がすっと晴れたような心持ちだった。きっとそうなんだろう。俺たちが剣を振る理由は、きっとひどく似通っている。俺たちの剣道は、恵まれた体躯でのびのびとした近藤のような豪快な剣でも、100年に1人と謳われる沖田のような神速神業の剣でもない。
 せいぜい100人に1人レベルの才能の持ち主が、強くありたいという欲望を叶えるためにひたすら努力を続けて、手探りで泥まみれで掴み取ってきた剣だ。自己愛と承認欲求を支えにひたむきに上を目指し、努力に見合った見返りを求めずにはいられない凡人の剣の道だ。
 きっと自分にとっても伊東にとっても、お互いが先の見えない道行の同伴者であり、進んだ距離を確認するための一里塚なんだろう。
「どうした?ボーっとして」
「いや、別に。珍しく意見が合うなって思っただけだ」
「映画の趣味は相変わらず合わないがね」
 苦笑した伊東が、来月の上映予定のラインナップを広げて見せた。



 たまに一緒に映画を観るだけの、あえて名前をつけるなら『シネ友』になった二人だったが、元々が敵校同士だっただけになんとなく周囲にはその事実を伏せていた。
 「たまの休みにぼっち映画たぁ、土方さんもずいぶん寂しい休日送ってやすねぇ」と沖田に揶揄された時も、「うるせぇ」と一喝しただけで「一人じゃない」とは言えなかった。
 聞いたことはないがおそらく伊東の方もそうなのだろう。何度か部活の試合で対戦することはあったが、試合場ではことさら他人のように振舞っていたから。

 隠すつもりがまったくなかったかと言えば、少しだけ嘘になる。
 お互いに、身内にすら言わない相手の秘密を知っている事になんとも言えない緊張感があり、それを楽しんでいたし、言ってしまう事で現在のバランスが崩れてしまうことを恐れてもいた。
 
 そもそも、二人が一緒に映画を鑑賞することに明確な理由もメリットもなかった。
 いくらペアなら単価が安くなるとはいえ、伊東と土方の映画の趣味は壊滅的にずれていて、鑑賞する作品を決める段階でまず揉めた。
 土方の観がたる任侠物は「くだらない」と一蹴されたし、伊東が気になっていた社会派物は「絶対寝る」の一言で却下された。
だけどお互いにプログラムを広げて言い争った結果「まあこれなら」と妥協して観た作品は、意外と面白かったし、どういうわけか泣くポイントだけは一緒だった。
 硬派気取りの色男が、キラキラした少女漫画原作の純愛映画で涙ぐんでいたり。皮肉屋で知性派ぶった優等生が、子猫が頑張る映画なんかで鼻の頭を真っ赤にしてみたり。その様はひどく新鮮だった。
 他の奴が知らないであろう顔を、自分だけが知っていると思うのは、何だかいい気分でもあった。



***



 三年の暮れも差し迫った時期に観たその映画は古い香港映画で、警察とマフィアの抗争を描いた、救いようの無い、悲劇的な結末の作品だった。
 長年マフィアに潜入していた捜査官と、警察に潜り込んだマフィアの組員。合わせ鏡のような二人の人生が、交差し、運命の流れが変わる瞬間。一人の男はもう一人の男の人生を奪うことで、新たに手にした己の道を守ろうとした。居場所を奪われた男は、それを取り戻すために戦った。
 もしかしてもう少しだけ、時が動くのが早かったら。恩人が死んでさえいなかったら。どこかで何かが違っていたら、一緒に生きる道もあったかもしれない。
 外国でもリメイクされた有名な映画で、結末はずっと前から知っている。
 なのに、なぜかやたらと涙腺を刺激した。

 横を見たら伊東は土方以上に泣いていた様子で、目の周りが赤く腫れていた。顔を見るのも悪い気がして、鼻をすすりながら、どちらからともなく手を握っていた。
 筋張って硬くて、自分と同じ様に剣ダコのある無骨な手が、なぜかひどく懐かしい気分になって、今度は映画と関係なく泣けてきた。手を握ったのなんて初めてのはずなのに、ちゃんと握り返された事が嬉しかった。
 明るくなってからもしばらく、黙って正面向いたまま、手を繋いで泣いていた。
 でかい図体の男子高校生二人が、手を握り合って泣きべそかいてる姿はさぞ異様だったことだろう。ほとんど客のいない映画館で本当によかった。


 映画館を出ると、まだ夕方の時間だがすっかり外は暗くなっていて、館内との温度差もあって真冬の寒さが身にしみた。もちろんもう手は離していたが、どことなくぎこちない空気が二人の間にまだ流れている。
「…飯食ってくか?」
「いや…今日は家族で予定があるんだ」
 泣きすぎたせいか、伊東は喉の調子が悪そうだ。そうか、と一緒に駅の方角に歩き出しながら、土方はちらりと横を見た。ブレザーの首元が晒されて、いかにも寒々しいのが気になる。
 首に巻いていた毛糸のマフラーを外して、黙って伊東の首に巻きつけた。
「ひっ…!」
 突然首を絞められた被害者みたいな悲鳴を上げて、伊東が土方をきっとにらみつける。
「何をする!」
「…驚かせて悪かったよ。なんか寒そうだったから」
「…イケメンというのは、本能的にそういう行動を取るようにプログラムされてるのか?」
 呆れたように肩をすくめて、伊東は首のマフラーを外して差し出す。
「こういうのは女性だけにすればいい」
「女にしたら面倒なことになるからやらねーよ。いいから持ってけ、受験前に風邪でも引いちゃ困るだろ」
 受け取らずに先に歩き出した土方の後を、困惑した声で伊東が追いかけてくる。
「いや、だがいつ返せるかわからないし」
「今度会った時でいい」
 そう言ってから、土方は伊東を困らせてしまっていないかと不安になった。
 自分たちが次に会えるのは、いつなんだ?

 三年の秋の試合を最後に、剣道部は引退した。最後の対戦相手も、伊東だった。それからはお互い受験勉強の追い込みで、今日会うのもその日以来だ。
 伊東の方から「来週会えないか」と電話が来た時も、受験前なのに大丈夫かと心配したくらいだ。
 年が明けたら受験本番で、ますます会えなくなるだろう。この先大学に進学して、どうするつもりなのか。これまでと変わらず友人関係を続けていけるのか、話題にする機会が無いままずるずると来てしまった。
 もしかしたら、卒業後に縁が途切れてしまう多数の同級生たちと同じように、会うのはこれが最後になるのかもしれない。そもそも、土方は伊東がどこに進学するつもりなのかすら聞いたことが無い。

「あー、いや…。やるよ。元々気に入ってねえしそれ」
 約束で縛るのが嫌でそう言ってみたものの、深緑色のそのマフラーは、実際自分より伊東の方がずっと似合っている気がした。
 しばらく考え込むように眉を寄せていた伊東が、ぐるりと首にそのマフラーを巻きなおし、「いや」と笑って 
「必ず返す」
 と答えた顔に、なぜか心臓がぎゅうと痛くなった。





 キューピー3分間クッキングのテーマが、コートのポケットから流れ出す。
 着信画面に表示された名前は、ついさっき改札で別れたばかりの相手だ。
「…どうした?」
 何か言い忘れたことでもあったのかと土方が怪訝そうな声で出ると、伊東は少し硬い声で『一つ頼みがあるんだが』と切り出した。
「なんだよ」
 なぜわざわざ、別れてから電話なんだ。直接言えない様なことなのか。嫌な予感で手にじわりと汗が出る。
『このマフラー、やっぱりこのまま貰ってもかまわないだろうか』
「え?」
 ああなんだよ、やっぱりそういう事かと携帯を持つ腕がずるりと重くなる。これっきりさよならって、そういう事か。落胆で肩を落とす土方だったが、続いた言葉に勢いよく顔を上げた。

『今日は誕生日なんだ』
「…は?たん、え、お前の?」
『そうだよ』
 くすりと、電話の向こうで笑った気配がする。
『だから、これは君から誕生祝としてもらってもいいかい』
「あ、ああそりゃぜんぜんいいけど…なんだよ、だったら先に言っとけよ。そうすりゃもっとマシなもん…」
『いや、これでいい。代わりに君の誕生日には何かしら用意しておくよ』
「…俺の誕生日、五月だぞ」
『知ってるよ』
 二の句が継げないでいる土方に、『じゃあそういう事で』とだけさっさと告げて、一方的に通話は切られた。

「…なんだってんだよ、いったい」
 呆然とその画面を見つめたまま、そんな言葉が口から滑り落ちる。
 それから、ゆっくりと頭の中でさっきの会話を繰り返した。伊東が土方の誕生日を把握しているのにも驚いたが、しかもそれは五月だ。新しい春を迎えてからも、また会える。
 ああよかったと明るい気分になる反面、一人で動揺したりして馬鹿みたいだとも思う。
 あー、チクショウ、とぼやきながら向いのホームを見たら、先の電車に乗ったとばかり思っていた伊東の姿が目に留まった。

 ふわりと巻いたマフラーを口元まで持ち上げて、頬を寄せている。
 緩んで真っ赤になったその表情を見て、土方は隣にいた見知らぬサラリーマンのおっさんと意味も無く握手したくなるような、浮かれた気分になった。

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